一般に先染めの絹織物は、絣と呼ばれる染色された糸1本1本を精密に織り上げることによって柄が構成されます。でも、12mの生地にある全ての糸を1本ずつ染めるのではありません。きもの柄として繰り返し現れる図案(パターン)をひとつの単位として組み立てます。たとえば、長さ30cmの図案なら12mの反物では、40回は繰り返して織られることになります。糸染めは、その40回現れる同色の糸・40本を束ねて染める工程です。実際には、大島などでは、生産単位が16反程度ですから、同じ柄の大島は16反はできることになります。仮にそうなら40本×16反=640本の糸をまとめて染めることになります。さらに、640本の糸が30cm分ほど、図案に合わせて異なる糸の束に染色されます。まさに途方もない労力と時間が費やされる訳です。
絣染めの原理は単純です。束ねた絹糸の一部分を木綿糸で硬く括り、染料に付け込みます。木綿糸で括らず何もしないところは染料に染まりますが、硬く括ったところは染まらず白のままで残ります。こうして織られた絣が、紺地に白い井桁や猫足絣のような文様になるという訳です。もちろん、製品となるためには、より高度で精密な染色技術、さらに多色染めに対応する必要があります。
本場の大島紬が、多色で精緻でありえる理由は、この絣染めを「締機」という織り機によって作業するところにあります。同時に、この工程とその後の手織りとが高額な製造原価の大部分を占めると言っても過言ではありません。そこで、村山大島は、締機にかわる「板締」という絣染め技術と力織機を導入します。板締とは、糸染めの工程を手による括りから板で締め付けて染める技法のことです。水目桜の板に図案に合わせて溝を彫り、束ねた糸を両側から挟み、ボルトとナットで締め付けます。板締された板の上に沸騰した染料を流し込むと、板に彫られた溝に沿って染料が染み込み、絣糸ができます。その板は、一枚のきものを染めるのには45枚~60枚必要とされます。染め上がった絣糸は、手織りではなく、動力織機で織られます。つまり、村山大島は、省力化と機械化によって生まれた高級絹織物と言えるでしょう。