初等科17.19.1 御召縮緬

御召御召(おめし)とは御召縮緬(おめしちりめん)のこと。その製法は、高級とされる縮緬に、もう一段と手を加え、精巧に織り上げた絹織物と言えるでしょう。縮緬の白生地は、まず生糸(きいと)を織り上げてから精練(せいれん)しますが、御召の場合は、先に生糸(きいと)を精練し、さらに、その絹糸を「先染(さきぞ)め」してから織り上げます。プロの間では、御召は「先練(さきね)先染(さきぞ)め」のきものと呼ばれ、最高級品の位置づけです。

きものTPOは、きものを着る上で守らなければならない基本的な約束事「しきたり」ですが、この御召縮緬は例外中の例外ということができます。それは、御召が大島紬(おおしまつむぎ)結城紬(ゆうきつむぎ)と同じく先染めの織のきものであるにもかかわらず結婚式や、格式を重視する茶席においても第一級の礼装着として着装を許されているからです。

御召縮緬の起源となった柳条(りゅうじょう)縮緬は、天正年間(1573~1592)に中国の織工が和泉の堺(現在の大阪府堺市)へ渡来して技術を伝え、それ以来国産されるようになりました。その高級な質感から貴族や武将に大変好まれていたようです。江戸時代に入り、徳川11代将軍家斉公(いえなりこう)がこれを好んで着用し、徳川家のきもの(御召料)としたことから高貴な方の御召物を略して御召という名がついたと言われています。11代将軍家斉が愛用された御召は、以後、庶民の間でも晴れ着として着用されるようになります。

「東の銘仙(めいせん)、西の御召(おめし)」と言われるほど、御召はきものの代表として一世を風靡(ふうび)しました。大正、昭和初期の日本を代表する画家が描いた美人画には、御召を着た女性の姿が多く描かれています。ただし、御召と名が付けば何でも礼装に着られるというものではありません。特に、結婚式やお茶席などでは、色柄に訪問着、色無地、江戸小紋に匹敵するだけの格調が必要です。大正から昭和に着られていた、いわゆる「ハイカラさん」のようなアンティーク感覚では、礼装としての共感は得られないでしょう。

明治・大正時代、御召のきものは女性たちの憧れでした。大柄な矢羽根(やばね)柄(矢絣)の御召に、海老茶(えびちゃ)色の袴姿の女学生スタイルは、大正末期に洋服ができるまで大流行しました。今でも高校や大学の入卒式で矢絣に袴姿の女性を見かけます。それは、そんな歴史的な背景によるものです。御召には、縞御召(しまおめし)絣御召(かすりおめし)無地御召(むじおめし)紋御召(もんおめし)風通御召(ふうつうおめし)縫い取り(ぬいとり)御召など、種類も豊富です。高級織物としての御召は、きもの専門家からの評価は高く、きもの愛好家・きもの通の間でも根強い人気があります。軽くてしなやか、風格の漂う御召縮緬を是非一度は味わって欲しいものです。

(資料:きものカルチャー研究所初等科テキスト)

中等科7.4.6
続・着こなし3.1.1
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