絹、綿、麻、化学繊維などの生地を染色して作られる着物、いわゆる「後染めの着物」は、表地のみを染める片面染めが主流ですが、裏地にも地色などを染める反物もあります。袷の着物なら裏地を付けて仕立てますので、裏面には色柄は必要ないと思われるかも知れません。しかし、実際には多くの江戸小紋などでも一色の無地などで裏面も染めてあります。それは、裏地を染めることによって表地の色柄に微妙な深みが出て、より鮮明な文様が表現できるからにほかなりません。武士の公服として発達した裃は、江戸時代後期には両面染めが現れます。袴の上着として着用した肩絹は、生地の裏側が見えるからだと思われます。つまり、肩絹には裏地は付けず単衣に仕立てますので、肩山を基点にした前側と後側になる表生地だけを染めたのでは、内側には色柄はなく、染める前の白い生地、もしくは無地の地色が見えることになるからです。特に表と同じ色柄の江戸小紋を染め上げる技術は難しく、表裏の柄がぴったり合わせなければなりません。それ以降、昭和初期まで同じ色柄で染める両面染めが少なからずありました(資料:染織辞典中江克己編)。その染色技法を現代に受け継ぎ再現したのが、この両面染めの江戸小紋です。生地の厚さ、わずか0.8~0.9mm程度の両面に色も柄も異なる図案が滲まず、干渉せず、見事に染め上げられました。